C 社は,電力会社向け監視制御システムの製造メーカである。親会社である電力会社 D 社向けに,発電所,変電所などを遠方から監視し,刻々と変わる電力需要に見合う電力を必要な地域に供給できるように遠方から制御するための,発変電遠方監視制御システムを納入してきた。
C 社の発変電遠方監視制御システムは,D 社管内を網羅する D 社所有の有線及び専用無線通信ネットワークを利用している。
現在の D 社の設備更新によって C 社の当面の売上は期待できるが,C 社は,将来を見越し,何らかの手段で売上を維持することが必要となっている。
D 社は,電力自由化によって電力の販売価格が下がり,販売電力量も減少してきている。このため D 社は,災害時を想定した保守体制,地域に根ざした営業力の強みを生かした新たな事業を模索している。
〔電力市場の状況〕
国は,3 年ごとに見直す“エネルギー基本計画”を次のとおりまとめた。
- 2030 年度に向けて,電源構成における,太陽光,風力,水力などの再生可能エネルギーの割合を“36%~38%”と,前回の計画“22%~24%”から引き上げる。
- 2030 年度に向けて,温室効果ガスを 2013 年度に比べて 46%削減する。
この基本計画は,電力会社が,主力電源として再生可能エネルギーへの切替えを急ぐ必要があることを示している。
〔電力事業における気象予測の必要性〕
蓄電池の技術が発達した現在でも,電力は貯めることが難しいエネルギーとされ,常時需要に見合った電力を発電して供給する技術が重要である。
電力の需要は,気候・気象と密接に関連しており,特に気温は発電計画の重要な要素として扱われてきた。今後,電源構成における再生可能エネルギーの割合が大きくなると,電力の供給においても気象の影響をより大きく受けるようになる。
そこで,気象の変化を予測して,再生可能エネルギーの発電出力の変動を相殺するように,火力発電などの発電出力を遅滞なく制御する必要がある。
さらに,電力会社間での電力の融通量を計算する情報システムにおいて,今後は,電力の融通量の算出に気象要素を含めることで,全国規模の効率化を図ることが求められている。
〔気象災害の激甚化〕
近年,地球温暖化が進んだことで,気象災害が激甚化するようになり,自治体による地域防災をはじめ,公共インフラ,交通機関,イベント事業,小売業など,地域企業で,局地的な気象に対する課題が大きくなってきている。
中でも“ゲリラ豪雨”と呼ばれる局地的な激しい降雨には,都市型の気象と考えられているものもある。都市開発によって土地の起伏や構成要素(田畑,森,工場,ビル,家屋,道路,鉄道など)が変化し,都市型の気象は,頻繁に変わる土地の起伏や構成要素と密接に関係する。
〔局地的な気象を予測するシステムの検討〕
C 社の IT ストラテジストである E 氏は,再生可能エネルギーの発電出力の変動を地域ごとに予測する技術の重要性が高まると考え,気象予報士でもあるシステムアーキテクトの F 氏に,現在の気象予測技術の調査と,太陽光発電や風力発電などにおける局地的な気象を予測するシステム(以下,局地気象予測システムという)の検討を依頼した。
F 氏は,局地気象に詳しい大学教授の文献も参考にして,E 氏に調査結果及び検討結果を次のように報告した。
(1) 現在の気象予測技術の調査結果
- 気温,風向,風速などの地上の気象データを約 17 キロメートル間隔で 10 分ごとに自動計測して,ラジオゾンデ,レーダ,気象衛星画像などの上空の気象データと併せて,スーパーコンピュータで今後の変化を一日数回算出することで,気象予測をしている。
- 台風,梅雨前線,高気圧・低気圧など,水平スケールが大きく寿命が長い気象については,現在の気象予測技術で予測可能である。
- 竜巻,積乱雲,局地的豪雨など,水平スケールが小さく寿命が短い気象については,現在の気象予測技術で場所と時間を特定した予測は一般化されていない。
- 観測成果を発表するための気象観測に使用する気象データ(気温,風向,風速,気圧,湿度,日射量,降水量など)の計測器(以下,気象測器という)には,検定に合格したものを使用しなければならない。
- 気象測器を販売しているメーカは多いが,検定に合格した気象測器を販売しているメーカは数社に限られており,いずれの気象測器も高価である。
(2) 局地気象予測システムの検討結果
- 気象測器を 1 キロメートル間隔程度の高密度で多数設置して,10 秒ごとの短周期で気象データを連続的に収集し,既存の上空の気象データと併せて AI で分析することで,場所と時間を特定した局地的な気象予測は,理論上可能と言われている。
- 局地的な気象予測の実証例は,確認できなかった。
- 局地的な気象は,土地の起伏や構成要素に影響を受けるので,局地気象予測システムは,搭載した地理情報システム(以下,GIS という)と連動させる必要がある。
- 気象測器の台数は,1 キロメートル間隔程度の高密度で設置すると D 社管内で数万台に上ると想定される。
- 気象測器は,故障に対する修理対応や交換を伴う定期的な保守が必要となる。
- C 社だけで,気象データを収集して分析するアプリケーションソフトウェアの開発は可能だが,気象測器の開発は難しい。
- 気象測器の設置に当たっては,周囲の環境を考慮するとともに,電源と通信手段を確保する必要がある。
〔システムの開発方針〕
E 氏は,あらかじめ,50 台程度の限定した数量の気象測器を使用して,局地気象予測システムの実効性を確認する必要があると考えた。また,実効性を確認する時点では,検定に合格した気象測器を用いなくてもよいと考えた。
E 氏は,C 社で気象データを収集して分析するアプリケーションソフトウェアを開発することを前提に,F 氏に,局地気象予測システムが気象業務法をはじめとする法制度に抵触することがないか調査を依頼した。
〔市場展開の検討〕
E 氏は,まず D 社の再生可能エネルギー発電所の設置箇所周辺に気象測器を高密度で多数設置することを想定して気象測器の台数を 3,000 台と試算した。
気象測器 3,000 台の購入を条件に,検定に合格した製品を販売する X 社と,検定に合格した製品をもたない Z 社に,製品価格と,予備器の保有,保守交換作業及び製品修理を含む 10 年間の保守費の見積りを依頼した。
見積りの結果は,Z 社が新規開発する検定合格品の価格は,X 社の検定合格品の約半額と魅力的だった。しかし,Z 社の製品修理価格は安価だが,10 年間の保守契約の価格は,別メーカに予備器の保有と保守交換作業を委託するので割高だった。
E 氏は,Z 社に 2%の予備器を追加した 3,060 台の製品価格と,予備器の保有及び保守交換作業を除く,製品修理だけの保守契約の見積りを再度依頼した。
また,地域企業向けに,都市部に気象測器を高密度で多数設置する段階では,情報更新の頻度が多い GIS の地図データを扱う企業と提携する必要があると考えた。
E 氏は,C 社だけで地域企業の新規市場開拓は難しいと考え,次のような事業戦略を策定した。
〔事業戦略の策定〕
E 氏は,局地気象予測システムの運用において D 社と次の役割分担の下,協業することを考えた。
- C 社は,F 氏の調査結果に基づき,気象業務法における予報業務の許可を受けた上で,予報業務内容に従い定められた人数以上の気象予報士を雇用し,自社のサーバで収集した気象データを AI によって分析して,気象予報士が判断した予測結果を,D 社をはじめとする利用者へ配信する。
- D 社は,気象測器の設置場所の確保,伝送路の準備・提供,及び保守交換作業を行い,局地気象予測システムの予測結果を再生可能エネルギーの発電出力の変動予測に利用するとともに,自治体,地域企業を対象に市場開拓を行う。
さらに,E 氏は,局地気象予測システムに外部の情報システムと情報連携を図る機能を追加して,ほかの電力会社へも導入するよう働きかけるべきと考えた。