営業部では,本年から PC で稼働する業務効率化ツール(以下,業務ツールという)を使って,営業員の業務の生産性を向上させる活動を推進しており,業務効率向上推進委員として,M 氏を任命している。なお,業務ツールは,営業員が自ら作成する。
M 氏は,営業員に対して業務ツール作成方法の指導や好事例の紹介を行うとともに,業務ツール利用についての作業管理を行っている。作業管理の手順を図 2 に示す。
図 2 作業管理の手順
① 営業員は,業務ツールを作成する場合,M 氏に事前に作成申請を行う。 ② M 氏は,業務効率向上の可能性などを判断し,業務ツールの作成申請を承認する。 ③ 営業員は,承認を得てから業務ツールを作成し,完成後に M 氏に利用申請を行う。 ④ M 氏は,完成した業務ツールの利用申請を承認する。 ⑤ 営業員は,業務ツールの実行ファイルを営業部内の PC にインストールして使用する。
昨今,他社において,マルウェア感染によって業務システムが長時間停止し,大きな事業影響を受ける事例が発生している。そこで情報システム部では,情報セキュリティ対策強化の取組を行うこととなり,情報システム部の IT サービスマネージャ K 氏が,J 社の情報セキュリティ対策を点検した。この結果,“未知マルウェアへの対応”及び“ログ管理方法の見直し”が必要であり,対策を検討することとした。
〔未知マルウェアへの対応〕
J 社で実施しているパターンマッチング方式のウイルスチェックは,検査対象のファイルを,既知の脅威情報を基にしたパターン情報と比較し,一致したものをウイルスとして検知するだけである。そこで,未知の脅威に対応できるように,パターンマッチング方式以外の手法を用いた未知マルウェア対策システムを導入することとした。
K 氏は,各社の製品を調査し,L 社の製品(以下,L ソフトという)を選定した。これに伴い,J 社機器に L ソフトを導入し,管理用の未知マルウェア対策サーバ(以下,L サーバという)を,J 社情報システム部に設置する。L ソフトの主な機能は次のとおりである。
実行ファイルの挙動を監視できる検査エンジンを有する L ソフトが,機器内のファイルを監視し,不正プログラムを検知する。監視する挙動としては,ファイルオープン及び削除の大量な繰り返しなどである。
L ソフトが不正プログラムを検知した場合,当該 J 社機器及び L サーバの画面に検知メッセージを表示し,不正プログラムを検体として採取する。
K 氏は,“未知マルウェアへの対応”及び“ログ管理方法の見直し”の検討結果について,情報システム部の N 部長に報告し,承認を得た。その後,対策を実施し,運用を開始することとした。
〔インシデントの発生とその対応〕
J 社機器に L ソフトを導入し,運用を開始後,ある日の 18 時 30 分頃に,営業部にある複数の営業員の PC で,不正プログラムが検知された。そこで,インシデント対応手順に従って,営業部の全 PC の LAN ケーブルを緊急抜線し,PC 利用を中止した。連絡を受けた K 氏は,PC 操作状況を営業員にヒアリングした結果,“ある業務ツールの利用を開始してすぐに,不正プログラムの検知メッセージが表示された”とのことであった。K 氏は,採取されていた検体を L 社に送付し,営業部での PC 操作状況を伝えて解析依頼を行った。
19 時 50 分に,L 社から“検体は,安全な実行ファイルであると確認できた。検体の挙動を L ソフトが過検知して検知メッセージを表示した”との解析結果の回答があった。なお,検体は,営業システム内にある大量の保険契約ファイルのオープンを順次繰り返して自動処理する業務ツールであった。そこで,K 氏は,翌営業日から,PC を利用して業務を再開できると判断した。
K 氏は,情報セキュリティインシデントの対応状況を整理し,業務再開に向けた承認を得るため,情報システム部の N 部長に報告した。N 部長から,“当該業務ツールが再び過検知されないように,対策を講じた上で業務を再開すること”との指示があった。そこで,K 氏は,(イ)過検知対策を講じ,業務を再開した。また,今後,今回と同様なインシデントの発生を防ぐために,日常的に実施する対策として,図 2 の作業管理の手順を見直し,図 2 の④の業務ツール利用申請の承認前に,(ウ)情報システム部が実施する手順を新たに追加して当該業務ツールが安全なファイルであることを確認することにした。
〔発生したインシデントの振り返り〕
K 氏は,今回発生した情報セキュリティインシデントを振り返り,一連の対応について,N 部長に報告した。N 部長から,“一連の対応の妥当性は確認できたが,L 社との保守サービスの契約が現在のままだと,情報セキュリティ管理の運用ルールを守れない場合があるので,(エ)L 社との保守契約を見直すこと”との指摘があった。そこで,K 氏は,プレミアムサポート保守サービスに契約を変更することにした。