B 社は,大手印刷会社である。事業部門として出版事業,広告事業,写真事業を有しており,機能部門としてデザイン部門,研究開発部門を有している。
〔B 社の写真事業〕
B 社の写真事業は,全国主要都市に写真スタジオを有しており,同一都市に複数の写真スタジオを展開している。写真スタジオでは,個人向けに七五三,成人式,結婚式などのライフイベントにおける写真撮影を行っており,撮影した写真をプリントし,販売している。写真スタジオには,カメラマンと事務スタッフがそれぞれ複数名勤務している。カメラマンはスタジオでの写真撮影を行うほか,出版事業,広告事業における写真撮影も行っている。しかし,近年高性能化したスマートフォン内蔵カメラの普及によって,かつてよりもカメラマンの稼働率が下がっている。
写真事業では,撮影した写真をプリント販売するのに加え,デザイン部門の協力を得て,撮影した写真を紙のアルバムとして編集し,販売している。B 社 Web サイトでは顧客別の専用ページ作成が可能になっている。専用ページには B 社で撮影した写真が保存されており,顧客は個人で撮影したディジタル写真をアップロードして追加することもできる。専用ページからアルバムに収録したい写真を選定することで,七五三,成人式,結婚式などの各ライフイベントに限定したアルバムや,ライフイベントを横断的に整理したアルバムを作成できる。アルバムは,デザイン性の高さから顧客の思い出に残るものとして,非常に高い評価を得ている。
研究開発部門では,ディープラーニングの顔認識技術を研究しており,写真事業に関連する領域では,写真に写っている“顔の識別”や“表情の分析”を行う機能を開発した。また,近年の法整備やプライバシー意識の高まりを踏まえて,写真の一部に対して自動でぼかしをいれる機能も開発した。
〔小中学校の状況〕
B 社は人的リソースの有効活用を事業課題とし,一層のビジネス拡大に向けて,潜在顧客として写真撮影の機会が多いと思われる小中学校を対象としてニーズの有無に関する調査を行った。調査結果の概要は次のとおりであった。
- 全国の小中学校では遠足,運動会,文化祭などの学校行事に際して写真撮影を行っていることが多い。
- 写真撮影は学校の職員が行うケースと外部のカメラマンに外注するケースがある。
- 撮影した写真は都度保護者に販売することに加え,卒業アルバムの掲載写真としても利用している。
- 学校は,卒業アルバムを思い出に残る良いものにするために毎年非常に苦労している。
B 社は,学校行事における写真撮影について,近隣の大規模中学校である C 中学校にヒアリングを行った。C 中学校には各学年に複数のクラスが存在し,学校行事で撮影される写真も多数に上る。C 中学校では次のプロセスで学校行事の写真を保護者に販売していることが分かった。
① 学校の職員が,学校行事に際して写真を撮影する。
② プリントした写真を学校の職員が校内に掲示する。
③ 保護者が来校し,購入する写真を選定する。
④ 保護者が,購入希望の写真を注文票に記入し学校の職員に提出する。
⑤ 学校の職員が写真の注文を取りまとめる。
⑥ 注文票と撮影媒体を業者に渡し,業者が写真をプリントして保護者に受け渡す。
現在 C 中学校では,学校の職員が写真撮影を行っている。これは,同一都市の小中学校が同一日に学校行事を実施することが多く,カメラマンを調達することに苦労した経験によるものである。学校の職員は,上記プロセスを行う過程で多くの手作業を行う必要があり,業務負荷が高いと感じている。また,保護者は写真の閲覧をするためだけに来校する必要があることや,掲示されている多数の写真の中から自分の子供を探し出すこと,自分の子供が良い表情で写っている写真を探し出すことが手間であると感じている。
B 社は以上の状況をチャンスと見て,主要都市の大規模小中学校における行事写真ビジネス(以下,新規ビジネスという)を立ち上げることにした。
〔新規ビジネスの概要〕
- 図 1 に示す写真購入システムを新たに開発し,次のプロセスで写真撮影販売サービスを実施する。
① B 社が小中学校と写真撮影,販売代行契約を締結する。
② B 社カメラマンが,学校行事に派遣されて写真を撮影し,写真をストレージにアップロードする。
③ 保護者が,B 社に対して氏名,住所,電子メールアドレス,パスワード,子供の所属学校名とともにアカウントの発行を申請する。
④ B 社が,保護者に対してアカウントを発行する。
⑤ 保護者がアカウントページから写真を閲覧し,購入希望の写真を選択する。
⑥ B 社が購入希望情報を確認し,各保護者に写真を紙媒体又はデータで送付する。 - 写真購入システムに表示する写真には“sample”のすかし文字を表示する。
- 写真購入システムには写真レコメンド機能を実装する。写真レコメンド機能では,研究開発部門で開発をしたディープラーニング技術を活用し“顔の識別”と“表情の分析”を行う。“顔の識別”ではまず,保護者が自分の子供の写っている写真を数枚選択する。すると,それらの写真に共通して写っている顔を識別し,ストレージから当該識別した顔と似た顔が写っている写真を優先してレコメンドする。また,“表情の分析”では,撮影した写真の中から表情が笑顔のものを優先してレコメンドする。
〔保護者説明会と要望への対応〕
B 社は新規ビジネスの検討を踏まえ,C 中学校で新規事業のトライアルを行うことにした。トライアルに先立ち保護者説明会を実施し,今回の取組について保護者から同意を得た。保護者からは IT の利用に習熟していない人にも分かりやすくしてほしいとの要望があった。また,学校の担当者からは,保護者から“自分の子供の顔が写っている写真を,他の保護者に購入されたくない”という要望が出た場合の対応方法も検討してほしいとの依頼を受けた。
保護者からの要望を受け,B 社は操作方法が直感的に分かるシンプルなページにするとともに,“よくある質問”や“お問合せ先”といったページを設けて保護者の疑問点を解消できるようにした。また学校の担当者の依頼に対応するために,複数の生徒が 1 枚の写真に写り込んでいる場合には,B 社の技術を生かした対応を行うことができるようにした。
さらに B 社は一層のビジネス拡大を念頭に,学校の課題を解決でき,B 社の既存ビジネスにおける強みを生かした,“写真撮影販売サービス以外の新たな提案”を行った。